端島の最大の特徴は、その遺産的価値と共に観るものを圧倒する外海側に立ち並ぶ住居棟群にあります。大正5年(1916)建築の日本 最古の鉄筋コンクリート造りのアパートをはじめ、鉄筋コンクリートと日本の木造家屋とを融合した建物、建設当時の大正7年に国内最高層 のアパート、離島建築で初めての地下階を設置したビル、建築不毛の時代と言われる第二次世界大戦を挟んだ10年間に建てられた唯一の本 格的建築と、日本の建築史上に貴重な足跡を残すビルがいまでも数多く現存しています。
 
  更にこれらの建築物が一時代に建築されたものでないことが、端島の住宅棟群の他に類を見ない特異な景観も生み出しています。通常集合 住宅というと殆ど均一な形をした建物の羅列が多く、逆に都市においてビルが立ち並ぶ光景は、ばらばらなものの集合体であることが通例で す。その点端島の建物は2対の建物 (65号棟と66号棟、56号棟と57号棟等) や3対の建物 (59〜61号棟) が、単独のデザイ ンの建物と混在しています。対の建物が創り出す一定のリズム感と、それに対する単独で主張する建物が織りなすハーモニーが、住宅棟群の 特殊でありながら魅力的な景観を創り出しているといえるでしょう。
 
  また高島炭鉱や崎戸炭鉱をはじめ、北海道の大夕張、美唄など、三菱系の殆どの炭鉱アパートは、戦後の石炭増産政策の一環として設けら れた融資制度による資金で作られていますが、唯一戦前の遙か前から高層アパートがあった端島に関しては、その殆どが三菱の自社資金で建 設されたので、三菱にとっても思い入れのあるアパート群だったのではないかと思います。

 

コンクリートの森

プロローグ 外海からの建築群 最古の鉄筋アパート 鉄筋と木造の融合 張り出しの採用 西洋と和風の融合 戦後集合住宅の先駆 現代複合住宅の先駆 日照 デザイン 建築年表