■ 30号棟 ■


  端島には日本で最古の鉄筋コンクリー ト造(以下RC)のアパートが今でも残
っています。大正5年(1916)築。 RC7階。一部半地下の30号棟と呼ば れる建物です。住宅棟としては島の最南 端に位置し、海上からもはっきりとその 姿がわかる、ほぼ立方体の建物です。
  島の狭い面積に対して増える人口に対 処するため、必要に迫られて生まれたこ の日本初の試みは、当時の鉱長がシカゴ を視察した経験から思いついたオリジナ ルな発想だったと言われています。
  元来炭鉱従事者は高度な土木技術者で もあったので、地下1,000mもの坑 道を掘り進む事に比べたら、地上に強固 な建物を造ることは造作ないことだった のかもしれません。

  表からは立方体に見えますが、実際は口字型で、内部に吹き抜けの空間があり、その空間の周囲を回るように階段が設置されています。

■ ワイヤー・ロープの鉄筋 ■


  現在ではRC構造に使う鉄筋は、異形鉄筋と呼ばれる細い円柱の 周囲がでこぼこしたものが一般的ですが、この建物の鉄筋には、炭 鉱施設の廃材である巻揚機用のワイヤーロープやトロッコ用のレー ルなどが転用されている部分が多くあります。またコンクリに混ぜ る砂を対岸の高浜から調達したため、壁面にはいたるところに貝殻 が埋まっています。
  完成当時、大阪朝日新聞が「銀座ならいざ知らず、絶海の孤島に

鉄筋7階建てのアパートが造られるとは、誰も想像できないだろう」

と報道しています。この建物が当時いかに特殊なものだったかが伺 えるエピソードです。
 
 
30号棟



RC造の発祥と、国内におけるRC建築、建物およびアパートへの使用状況を知ると、端島の建築物の先駆性
がよりはっきりとわかります。
 
  コンクリートと鉄筋を組み合わせた鉄筋コンクリート造−reinforced concrete (RC造)−は、1880〜
1890年代にケーネン(E.M.Koenen、独)やアネビク(F.Hennebique、仏)によって技術的に確立され発展
しました。アネビクが1905年に架設したRC橋はベルギー・リエージュのオルラス川に現存しています。
  コンクリートの技法を最初に建築に持ち込んだオーギュスト・ペレ(仏)が1902年に設計したRC造の

集合住宅は、築後100年以上経つ今日でもパリに
現存しますが、この技法を弟子のル・コルビュジエ
(仏)が引き継ぎ、後に有名なロンシャン教会が造
られることになります。
  わが国初期のRC造建造物は明治36年(190
3)琵琶湖疎水路上架橋や明治37年(1904)
佐世保軍港内の施設などが揚げられます。
  普通の建物に使われるようになったのは明治44
年(1911)の三井物産横浜支店(デザイン・遠
藤於菟、構造・佐野利器)が最初で、わが国初の、
 


オールRC造・4階建の建物は現在も横浜にあり、
しかも現役で使用されています。(画像右上)
横浜市中区日本大通14番地
  またアパートにRCが使われたのは、端島の初
期の建築物を除くと、関東大震災の後、大きな地
震にも耐えられる集合住宅建設の必要にせまられ
て生まれた大正15年築の中之郷と青山に始まる
一連の同潤会アパートですが、現在ではその殆ど
が取り壊されてしまっています。画像左下は在り
し日の青山同潤会アパート。

 
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コンクリートの森

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