島内の初期の頃のRC建築には、それまでの日本的家屋と西洋から導入されたRCという構造との見事な融合がみられます。特に16号 〜20号棟(大正7年〜昭和7年築・9階建、20号棟のみ6階建)−通称日給社宅と呼ばれていた建物には木製の欄干、土間、長屋的構 造、露地など、日本古来の建築や町造りの発想がちりばめられています。また当時の建築としても珍しいRCと木造の完全な合体形の建築 物もいくつかありました。

■ 鉄筋と木造の美しい融合 ■


  日給社宅をはじめ、島内のRC建築の 窓枠及び手摺は、その殆どが木製です。 本来塩害による腐食防止の目的が最大の 理由の木部の大幅な導入ですが、このこ とが端島のRC建築物の不思議かつ妙に 暖かみのある景観をうみだしています。 東京の中之郷や青山の同潤会アパートを

はじめ、当時の集合住宅の写真をみても、

端島の建物ほど木造部分が外周に取り入 れられている例はあまりありません。
  また玄関の扉は木製の引き戸でした。 これは当時の集合住宅としては特殊なも のではありませんが、それまでの長屋的 な構造をそのままRC建築に移植したよ うな今から見ると不思議な景観です。   外廊下は、公共的露地の役割を担って いたと同時に、各部屋のプライベートス ペースの延長としても使われ、コンクリ 製貯水槽をはじめ洗濯機や物干し台など がおかれていました。

■ 土間 ■


  また玄関の中は土間の造りになっています。
  土間とは靴を脱いで室内へ入る習慣のある日本人が古来より住宅 に採用してきた玄関の構造ですが、時代の古いRC建築物の玄関に は、旧来の高低差がかなりある土間の作りが採用されています。
  これは主に戦前の建築物にみられる傾向ですが、時代と共にだん だん高低差がなくなり、戦中戦後に建設されたアパートでは、土間 ではあるものの、殆ど居室との高低差がなくなっています。
  また各階の部屋は分厚いRC壁ではなく、極めてうすい土壁で区 切られています。現代のアパートやマンションのような一部屋一部 屋が独立した作りとは違う、日本古来の長屋的な構造が採用されて いました。これら総てを備えた日給社宅の廊下を歩くと、鉄筋の建 物を歩いていると言うよりは、下町の長屋街の中を歩いているよう な感覚を覚えます。
 
日給社宅

■ 8号棟 ■


  上記のようなRC建築への木造部分の取り入れとは別に、完全に RCと木造が合体した建物も、幾つか造られました。8号棟(大正 8年築・3階建)や12号棟(昭和2年築・3階建)と呼ばれる建 物です。
  8号棟は1階の共同浴場部分がRC造で、その上に2階建4部屋 の木造住宅が乗っかる形になっていました。木造住宅部分は職員住 居として使われ、1階の共同浴場は高台に棲む職員達のための浴場 でしたが、戦後の職階制の崩壊により、鉱員家族も使用するように なったものです。
 
 
 
 
8号棟

■ 12号棟 ■


  また12号棟の骨格を造る鉄筋部分は室内空間としてではなく、 通路としての空間を造り出し、その上にRCに囲われて1階、さら にその上に木造で2階という極めて特殊な造りになっています。画 像は12号棟の下部通路ですが、RCの上部に家屋床面の木材がは っきりと見えます。
  さらに明治晩年に建設された大型木造アパート(旧14号棟、旧 15号棟・14号は操業中に立て替え・15号は解体)は各階の床 面がコンクリート製で、8号棟や12号棟のような鉄筋木造合体建 築が生まれる土壌が既にあったことを物語っています。
  これらはRCの耐久性と木造家屋の住み良さの合体という発想か ら生まれたものですが、総て職員の為の住宅に採用されました。い

ずれもRC建築の初期段階に造られた、国内でも数少ない実例です。

 
12号棟

■ 23号棟 ■


  これらとは別に島内唯一の寺院があった23号棟(大正10年・ 2階建)も、RCと木造との融合建築でした。RCの人工地盤の上 に建つこの建物は2階が寺院、1階が女子独身寮(閉山時は女子看 護婦寮)として使われていた建物ですが、1階の一角だけが、RC の人工地盤があたかも盛り上がったようなかたちで居室らしき構造 になっています。
  度重なる波浪により現在では島内の木造建築部分は殆ど崩壊して しまっていて、この寺院の場合もその類例にもれませんが、このR C部分だけは、いまでもしっかりと残っています。
  現代の街中ではとても見ることの出来ないRCと木造の融合・合 体建築は、日本建築と外来技術を折衷しようとした試行錯誤の証で す。
 
23号棟

 
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